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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)393号 判決

秋田県平鹿郡横手町八幡字石町三八番地

上告人

村上己之助

右訴訟代理人弁護士

細野三千雄

同県同郡同町裏町二九番地

被上告人

掛札ヤス

右当事者間の建物収去土地明渡請求(再審)事件について、仙台高等裁判所秋田支部が昭和二七年三月二七日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士細野三千雄の上告理由について。

再審は民訴四二〇条一項に列挙された事由に限つて許されると解すべきである。蓋し一旦判決が確定した以上これによる解決を尊重し、紛争の蒸し返しを認めないことを原則とするのであるが、飽くまでもこの原則を貫くときは具体的正義の要求に背馳する場合もあり得るので、特に特定の事由ある場合に限つて例外としてその判決の取消と事案の再審判を求め得ることとしたのが、再審制度の認められている所以であり、民訴はその例外たる事由として四二〇条一項一号乃至一〇号を列挙したのであつて右事由は単なる例示的なものと解し得ないからである。而して本訴において上告人が再審を求める理由は被上告人は昭和二〇年三月一九日上告人に対し秋田地方裁判所横手支部に建物収去土地明渡請求の訴を提起し、同裁判所は同庁昭和二〇年(ハ)第四号事件として審理の結果昭和二二年一二月一六日上告人敗訴の判決を言渡し右判決に対して上告人から秋田地方裁判所に控訴を提起したが右控訴は控訴期間経過後の提起であるという理由によつて却下となり第一審判決は確定したのであるが(一)右訴訟については昭和二二年五月一二日上告人から被上告人に対して秋田地方裁判所横手支部に右訴訟の目的土地につき小作権存在確認の調停申立を為し、右調停事件は同庁昭和二二年(セ)新第二号事件として同裁判所に繋属していたのであるから同裁判所は小作調停法九条によつて当然右訴訟手続を中止すべきであるのにこれを看過して訴訟手続を進行して判決を言渡した違法がある。(二)上告人は前記訴訟の目的土地に対し自作農創設特別措置法第一五条一項二号によつて自作農創設のため横手町農地委員会に政府買収の申請をなし、同委員会は昭和二三年三月六日政府買収の裁決を為し、同二四年二月五日上告人に対して売渡決定があり、上告人は同年三月一日その代金を納入し右土地は上告人の所有に確定した。即ち前記判決確定後において行政処分によつて上告人は該訴訟の目的土地の所有権を取得したから民訴四二〇条一項八号によつて再審の事由があるというのであるが右(一)の事由は民訴四二〇条一項列挙の事由の何れにも該当しない。また、右(二)の事由は民訴四二〇条一項八号に該当しないし、他の法定の再審事由にも該当しないと解すべきであるから、同一趣旨に出でた原判決は正当である。なお論旨は違憲を云々するが結局名を違憲に藉りて原審の民訴四二〇条一項に関する解釈適用を争うに過ぎず、而も右解釈適用に誤りの存しないこと上記のとおりであるから論旨は採用に値しない。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

昭和二七年(オ)第三九三号

上告人 村上已之助

被上告人 掛札ヤス

上告代理人細野三千雄の上告理由

第一点 横手区裁判所昭和二十年(ハ)第四号建物収去土地明渡事件は、秋田地方裁判所横手支部昭和二十二年(セ新)第二号小作権存在確認調停事件が受理され同庁に係属中であるから小作調停法第九条によつて当然右訴訟手続を中止すべきであつたのに、審理進行して判決されたことの違法は本件第一、二審共に認むるところである。

右違法を匡正すべき方法として控訴審に於て之を争ふべきであつたところ、当時の訴訟代理人は適法な上訴手続をなしたに拘はらず、終戦直前の逓送事務混乱の時代であつたので控訴状が裁判所に到達した時は既に控訴期間経過後であつたことが後日判明したのである。斯くして第一審判決は確定したのであるが、違法な判決は依然としてその違法性を存続してゐるのである。然るところ、其後自作農創設特別措置法によつて横手町農地委員会が昭和二十三年三月六月政府買収、昭和二十四年二月五日上告人に売渡の夫々行政処分をなした結果、前記確定判決の基礎となつた法律関係が後の行政処分によつて変更される結果となつたので、上告人は本件再審の訴を提起するに至つたものである。

再審とは、確定裁判を経たる事件について訴訟手続を再施し、その裁判の当否を審査して更らに裁判をなす手続を言ふものであること、要するに確定判決に対する不服の申立手続であることは明瞭であるが、果して然らば民事訴訟法第四百二十条第一項各号記載の事由は之を峻厳に限局すべきではなく、確定判決の違法が明瞭である本件の如き場合には、右法規は之を拡張解釈してもその判決の違法を匡正すべきであると思ふ。

上告人は前記違法な確定判決によつて居住の自由を奪はれるので、民事訴訟法第四百二十条第一項の拡張解釈に拠つて再審の訴をなしたのに原判決が之を排斥したのは結局法律の定める手続によらないで上告人の自由を奪つたことになり、憲法第三十一条に違背するものと思料して上告した次第である。

以上

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